ローストチキンは作らなかった。ケンタッキーを買ってこよう、と決めていたから。
お肉は素人が作ったちゃちなものより、買ったほうが味も見た目も抜群だ。メインを手抜きするってどうなんだろう。
頭を捻って考え出したのは、なけなしのローストビーフだった。煮込むだけの、簡単な料理。
メインディッシュの隣にでも、細やかながらおいておこう。付け合わせにサラダも作った。ポテトサラダにシーフードサラダ、アボカドサラダに添える野菜をせめてものかわいい形にして。
スープも下ごしらえをして、見栄えがいいから帰ってきたら、グラタンも作ろう。
クリスマスに特別な料理を用意するなんてずいぶんと久しい。むず痒い感情を隠すように、身支度を始めた。
時計を見ると、既に時刻は21時をまわっていた。昨日と同様に、今日も編集部一同は仕事に精を出している。帰宅したのは相田さん、一人だけ。
季節のイベントなど関係ない様が浮き彫りになる、師走の編集部。
帰る頃には22時を過ぎてしまっていた。
慌てて会社を出たけれど、お店の営業時間は既に終わっていて、ローストビーフを作っておいててよかった、とわずかに安堵する。
まだギリギリ開いているスーパーに寄ってシャンパンと、白ワインを買っていった。蒼佑くんが白ワインは結構好き、と言っていたのを思い出して。
ぱたぱたと小走りで家へ向かうと、待ちくたびれたのか、蒼佑くんはソファーに持たれて眠りこけていた。
朝早く準備した今日の自分を褒めてあげたい、いそいそと蒼佑くんが起きる前に準備をした。キッチンから料理の匂いがしたのか、目をごしごしと擦ってお帰り、と微笑んでくれた。
「遅くなってごめん」
「んーん。いいよ、全然。お疲れさま」
そう言って、テーブルに料理を運ぶ手伝いをしてくれた。おいしそう、とにこにこしてくれて、照れくさくてそっぽを向いた。
いつもより豪華な料理に可愛いケーキとちょっと高いお酒。細長いシャンパングラスの代わりに、プレゼントのひとつでもある綺麗なグラスに注いだ。
「あれ、このグラス、初めて見るね」
蒼佑くんはふわふわした見た目に反して、意外と鋭い。神経質とは違うと思うけど、小さなことにもよく気がつく。
「一応、クリスマスプレゼント。……うちでお揃いとかきもい?」

