「どうしたの」
なるべく落ち着いたトーンで語りかける。今にも泣きだしそうな顔だったから、ぎょっとした。
「26日……瑞樹、帰ってくるって」
ああ、という言葉を呑み込んだ。だから、こんなに落ち着かない様子だったのか。
「それで、クリスマス、どっか行きたいって?」
「……ん」
「このままどっか行ってしまいたい、みたいな?」
「……ううん、このまま百合子ちゃんを瑞樹に会わせないで、どっか攫って行っちゃいたい……みたいな」
寂しそうな顔をして、下手くそな、愛想笑いをしていた。その顔を真正面から見ることができなくて、誤魔化すように抱きしめた。できるだけ、強く、強く。
「残念ながら、クリスマスは仕事です! ちなみにあたしは30日まで仕事です〜」
「……そっか。やっぱ編集さんて忙しいね」
みんな忙しいのは一緒でしょ、と笑って見せた。不安な気持ちを、取り払えるように。
「仕事が終わってからでいいなら、どっか行く?」
「ううん。いいよ、無理しないで」
「……そうだ! じゃあ腕によりをかけて、晩御飯、クリスマス仕様にする! 蒼佑くんは、仕事終わったらケーキ買ってきて!」
あたしはチョコのほうがいいんだけど、クリスマスっていったら白いケーキかねえ、とコンビニの袋からチラシを取り出して見せた。
「……ありがとう」
そう言って、おでこに唇を落とされた。
その日は、初めて一緒のベッドで寄り添って寝た。
前日から仕込んだ料理を、朝、早く起きて確認する。
帰ってきたら、焼けばいいだけ、温めればいいだけ、のレストランには叶わない料理だったけど。
当日のお楽しみだと、前日は家に来ちゃだめだよ、と退けたけれど、イブに家族と過ごすとかもうなんか恥ずかしいよ……と人さし指で円を描いていた。
彼女いない友達だっているでしょうよ、と蒼佑くんの意見を突っぱねると、じゃあ寝室に籠ってるから! と、ああ言えばこう言う。
それを何度か繰り返して、私が先に折れるはめになった。
それじゃあ、なるべくキッチンのほう来ないでね、と告げると、喜々としてうん! といい返事が返ってきたから、しかたない、大目に見よう。

