——久しぶりに深酒をした。

翌日に、何も覚えていないくらいの、浴びるような、深酒を。









「っ、百合子……」



 あのときの、百合子の顔が頭から離れない。



いつもは笑って、たれ目がちな目が細くなる。ふにゃっと頬がゆるむような笑い方。

そんな百合子の顔が、眉間に皺を寄せるわけでもなく、目がキッとつるわけでもなく。



下手くそに笑った顔で感情を隠そうとしているその表情は、別れを切り出した昔と同じ顔だ。









「好きな子できたから別れる」





 あのときもこんな顔をしていた。

大きな目は、どこを見ているかわからなくて、いつも口角が上がっている口元は、無理やり取り繕った、下手な笑顔を浮かべていた。





 普段なら、百合子は仕事をしている時間だというのはわかっていた。

だからというのも言い訳がましいが、鉢合わせするなんて、頭の隅にも考えていなかった。



ホテルで会うなんて絶望的なシチュエーション。

あの日は、べたべたまとわりつく女を振り払って、百合子を追いかけた。



電話もLINEも、きっと着歴が俺でいっぱいになるくらい連絡をした。それに返事は一つもなかったけれど。

家に押しかけてもみたけれど、オートロックは住人以外の人間を頑なに拒み、何度もインターホンをしたけど、反応はなかった。

その後も返事のない携帯に、何度も連絡をした。






応答のない無機質な携帯にイライラして、後日、蒼佑の首根っこを掴んで無理やり飲みに連行した。





「くそっ、言い訳くらいさせてくれてもいいじゃねえかよっ」




 頭をガシガシと掻き毟ると、まあまあと蒼佑に宥められた。煙草を吸って、酒を飲んで、悪酔いするのは目に見えていた。

それでも、その日は飲まなければやっていられなかった。





「だいたい、なんでホテルなんか行ったんだよ」


 お前百合子ちゃんに告白しといて、と肩を叩かれた。

……当然だ。俺だってそんな予定は微塵もなかった、はずなのに。