「知り合いとホテルで会うとか超気まずいっすね」



 けたけたと笑う中島くんと、心配そうにこちらの様子を伺う作家さん。すぐに笑顔を取り繕って、



「いやー、変なことまで想像しちゃったよね!」



と、努めて明るく振る舞うと、功を奏したのか、二人とも「いいネタになりそうですね」、「今日来てよかったです!」と楽しそうに笑っていたのが、せめてもの救いだった。









 あの日、好きだというのは口先だけだったのだろうか。

それとも、私がその言葉に舞い上がりすぎていたのだろうか。

結局は、好意に浮かれて勝手な期待をしてしまっていたのではないだろうか。



あの日から、ぐるぐると私の頭は混乱し続けていた。

瑞樹から何度も連絡がきては無視をして、一度、家まで堅い顔をして訪ねてきたのがモニター越しに見えたが、居留守を使って頑なに会うことを避けていた。

半ばヤケになって、合コンでも行くかと思っていたところまでは良かったものの、行動に移せず、もやもやと悩ましい感情が大きくなるだけだった。




「中島〜。今回の面白くなってるじゃん、神原先生、ラブホ回!」

「まじすか! あざっす! やっぱネットと実際行くのじゃかなり違うっつって、インスピレーション湧いたとかで調子良くて!」



 この調子で頑張れよー、と喜ばしい声が聞こえてくる。私の気持ちとは裏腹に、和やかな空気に包まれていた。



「いやー、佐伯さんがついてきてくれたおかげっすよ!」



 お菓子を差し出されて、ありがとう、と雑に受け取る。おかげで私はもやもやしてますとは言えるわけもなく、はは、とポリポリお菓子を頬張った。







 喫煙所で一服しようと、階段を下りる。タイミング良く、誰もいない喫煙所で盛大に溜息をついた。




あれやこれやと悩みの種は、瑞樹のことばかりが浮かんできて、腕にまとわりついていたあの女性はどういう関係なのだろうかとか、あれからどうしたんだろうかとか、答えの出ない疑問ばかりが繰り返し浮かんでは消えていった。

そういえば、彼女がいるのかもしれないし、そんな話を聞いたことがなかったな、と流されたまま過ごしていたことを悔やんでいた。






 ……好き、なのだろうか。こんなに、別れたはずの人のころばかり考えるのは。

きっと他の誰かに相談したら、好きに決まっていると返されそうで、相談することもせず、しばらく自問自答を繰り返していた。