「あ、ごめん。えーっと、あたしをふったの誰でしたっけ……」

「俺だけど」

「それで今なんとおっしゃいましたっけ……」

「好きって言ったんだけど」

「お、おおう……」

「またつき合えばいいじゃん。いい物件だろ、俺」



 ま、蒼佑も悪くはねえけどな、でも俺のが背高いし、と頭上で手を動かしていた。



「そういう問題じゃないでしょうよ……」


 キャパオーバーになった思考回路がこれ以上考えることを拒否していた。

お風呂に入ってリフレッシュしようなんて安易に考えていたら、くらりと視界が歪んだ。眩暈がして、いつの間にかベッドに寝かされていた。






 
 次の日、ピピっと小さな機械音で起きた。



「37.8℃……熱あるな」



 誰のせいだよ、とツッコミを入れたかったけど、体がだるくてそれは叶わなかった。



 甲斐甲斐しく世話を焼かれて、おかゆまで出てきてしまって、風邪じゃないよとは言いにくかった。家を飛び出した日、例年より気温が低かったから体調を崩したと思われたのかもしれない。そ

れはそれで、余計な詮索をされなさそうだからありがたいのだけれど。



「俺帰るけど、大丈夫かよ」

「うん」



 わずかな間、目を伏せて、すぐに視線を戻した瑞樹。すると、意地悪な笑みを浮かべて言う。



「……泊まってやろうか。今日だけと言わず、ずっと」

「いや、是非とも帰ってください」




 だるだるのパジャマ姿でみっともない。そんなことは気にもせず、しっしっと追いやる素振りを見せた。








 またな、とドアに手をかける瑞樹。

ん、と手を挙げると、振り向きざまに後頭部に手を回されて、触れるだけのキス、をされた。




「好きって言ったの、冗談じゃねえから」




 しばらくは頭いっぱいだな、俺のことで、とニカっと笑って部屋を出て行った。




「なんなの……」



 せっかくの休日は、結局一日中寝て過ごすはめになってしまった。