「あ、でも大丈夫だよ、全然。うち、結構会社から近いし」

「そういう問題じゃないよ! 徒歩とか絶対やめたほうがいいって! 危ないよ、もう夜中だよ?」

「そう? わりと明るいから、心配しなくても大丈夫だよ」



 何度かこのやりとりが続いたあと、「あ!」と受話器の向こう側で声がした。



「じ、じゃあおれ車で迎えに行くよ! 家まで送らせて!」



 すぐ行く行くから待っててね! と一言付け足した後、すぐに電話が切れてしまった。



「嘘でしょ、だったらタクシーで帰るのに……」



 蒼佑くんはこれと決めたら意外と強引なところがあるらしい。連絡先を交換したあのときの執念深さは、一時の気の迷いじゃなかったのかもな、と感心にも似た思いが芽生えた。










「百合子ちゃん! 着いたよ、下に停めてるから、待ってるね」



 あのあとすぐに家を出たのか、すぐさま迎えに来てくれた。



「ごめん、蒼佑くん。わざわざ車出させちゃって。申し訳ない」

「いいよ、いいよ! おれが勝手に来たんだから」



 そう微笑んで、内側からドアを開けてくれた。寝ていたのだろうか、後ろの髪の毛が少しはねている。


 助手席に乗り込むと、「いやー、どこで働いてるのか聞いててよかった!」と、笑いながら、ギアをドライブに入れ車を発車させた。



「あっ、おれきもい? ちょっと浮かれすぎ?」

「ふふっ、気持ち悪くはないですけど。人の話は最後まで聞いてくれると好感度高いかも?」

「ああ、さっきの電話ね……」



 茶化した言葉には、斜め上の回答が返ってくる。



「ちょっとだけ、ちょっとだけね、わざとやった。だって、普通に電話続けてたら断ってたでしょ?」

「うん?」

「百合子ちゃんなら遠慮して、だったらタクシーで帰る、とかなんとか言うかなって」



 策士だったのか、と妙に納得するも、それを正直に話すところに人の良さを感じる。逆にそう思わせる作戦? なんて勘ぐってしまうのは、必要以上に異性と関わることを避けてきたツケなのかもしれない。



「こっち、まっすぐ?」

「うん。一本先で左にお願いします」

「おっけー」



 人通りのない夜道は、家まで快調に送り届けてくれた。



「着いたよ」

「ありがとう。すごく助かった」

「いえいえ」