瑞樹が心配してくれているのは知っていた。
自分のせいで、と一人で責任を負おうとするのは彼の悪い癖だと思う。
何度も何度も、家に訪ねてきてくれて、心配してくれてるのが身に染みた。
けれど、瑞樹だったら心配する人の好意を受け入れないわけがない、一人で来て、憮然と私の家に居座るだろう。
一人で来ても入れないよ、なんて口先だけの約束だと、堂々と部屋に訪ねてくるだろう。
わざわざ友人を連れて来て、女の中に男一人だなんて、よほどのことがない限り、やらないって、知っている。
蒼佑くんと、腰を据えて話したのだろうなと思っていた。
年末は口を閉ざして、蒼佑くんのことなんて口にしていなかったけど、いつの日からか、いつから連絡とってないんだとか、大丈夫かとか、普通に会話に出てくるようになった。
毎回、冬子たちに連絡するのしんどいんだよ、なんて言っても律儀に連れてくるあたりは、瑞樹は本当に真面目だな、なんて思う。
こうやって、面倒くさささえも受け入れてるのは、私のことだけじゃなくて、蒼佑くんに操を立てていたという部分もあるんだと感じていた。……決して変な意味ではないけれど。
蒼佑も俺も他の女に手出して、ふらついてるのはお前の管理不足だと言われたことがある。
浮気しとして何様だ、と女性陣からは避難ごうごうだったけど、手綱はちゃんと握っておけと叱られた。
人にああしろこうしろと言われるのを嫌がるくせに、調子のいいことを言う。
けれど、好きなやつになら少しは縛ってほしいんだ、と告げる瑞樹の言葉が深く胸に突き刺さった。
そうやって、優しくしてくれる瑞樹を突き放さなかった。
突き放したら、本当に蒼佑くんとの繋がりがなくなってしまうと思ったから。
好意を寄せる人の気持ちを踏みにじって、他の男の人のことを考えてるなんて、私だったら耐えられない。耐えられないのに、それをわかった上で瑞樹を利用して。
人を傷つけるのが怖いと言っていた、10年前の私はどこに行ったんだろう。
たまに、こんなことで一人で頭を悩ませることもあったけど、好きになるってそういうもんだ、と見透かしたように言われてドキッとした。
それでも一緒にいたら、靡いてくれるかも、なんて一縷の望みを捨てられないのが恋だと。
そうやって、わかっているのに私の頬の傷なんて比じゃないくらいに傷つけて。
「好きなやつが好きって、すげえ、辛いのな」

