いきなりどうした、と茶化したい。



他の女はどうした、と身体をがくがく揺さぶって、どん底に突き落とすまで責めてやりたい。

……私が断るつもりだったら、どうするんだと、この高そうな指輪を突き出してやりたい。




頭の中だけでは、いくつも言葉が出てくるのに、頭と言葉が直結しない。

——ぼろぼろと、涙が溢れて止められない。

壊れた蛇口みたいにたくさん零れて、止めたくても止められない。






「やっぱり、だめかな」



 握りしめて、白くなった私の拳を、包み込む。言いたいことは、山ほどあるのに。目からぼろぼろ零れてしまう。



「……蒼佑くん」


 ん? と覗き込む蒼佑くんの顔はよく見えないけれど、きっと、きっと情けない顔をしているに違いない。そんなのは、私も同じで。










「……もう、置いていかないで。傍にいてよ……」


 こんなときくらい、もっと可愛い言葉で言いたかった。

上から目線も甚だしい。そんな、拙い言葉でしか伝えられない。

少ない語彙を、ありったけの知識で振り絞ろうとするしかない。






「……っ、百合子ちゃん」


 あんなにまぬけに鎮座していた段ボールを跳ね除けて、距離がとたんにゼロになる。ぎゅうぎゅうとくっついた蒼佑くんの匂いが、鼻を掠めて、狂ったように涙が出る。


 蒼佑くんの背中に手をまわした。

ぎゅっと、もっと、痛いくらいに抱きしめて。




彼の服が、見る目もあてられないくらいに汚してしまったけど、目を細めて笑ってくれる。

こんなぐちゃぐちゃになった顔でも、かわいい、と頭を撫でてくれる。







「いっぱい、ごめんね……」



 ぐりぐりと、頭を揺らす蒼佑くんが愛おしい。

指輪のはまった指に触れたら、どうしようもなく想いが溢れて、蒼佑くんを抱きしめた。




ぐすっと、とめどなく溢れる涙が、きりがなくて、それでもずっと私の言葉を待っていてくれる。


「……ばか。許さない」

「……うん、ごめん」

「それでもやっぱり蒼佑くんがいい」



 ようやく、この背中に、腕に縋りつけた。

遠回りして、伝えたかった言葉を飲み込んでばかりで、後悔しないふりはもうできない。



掴みたかったこの手が、今、私を抱きしめてくれるのなら、今度は絶対、離さない。






 これ、と差し出された携帯が真新しい。

来月から、番号変わるから、なんて言われてどきっとした。