「どこ行くの」
唯一、出てきたまともな質問には、内緒、といとも簡単にすり抜けられて、タクシーに乗せられた。
蒼佑くんは、ずるい。
私がタクシーに乗ったら、運転手さんに白い眼で見られるのが怖いから、あれやこれやと騒々しく騒がない、と知った上でやっている。
優柔不断だから、体よく丸め込められるのも知ってやっている、のだと思う。
タクシーはどこかのマンションの前につけられて、降りるように促された。
素直に彼の言うことを聞くと、タクシーはすぐにまた新たな乗客を見つけに大通りに向かって行く。
話しかけても、蒼佑くんは私の手を引くばかりで、何も答えてはくれなかった。
けれど、繋がれた手に紛れもない彼の体温を感じて、指の先までぎゅっと握りしめたくなった。
入って、と扉の開けられたマンションの一室は、暗くてよく見えなかった。けれど、静けさだけは感じ取れて、頭を傾げるほかなかった。
「あ、ごめん、暗いよね。電気つける」
パチ、とスイッチを入れると、ようやく明かりが灯って、彼の顔がよく見える。笑っているのに強張って、引き攣った顔が目に入る。
玄関で、靴も脱がずに棒立ちで、むくんだままの足にパンプスが食い込む。
こっち来て、と手招きする蒼佑くんに、頷いて今行く、と伝えたけど、なかなか靴が脱げなかった。
もたもたする私を見かねて、どこか部屋に明かりを点けたあと、玄関に戻ってきた。
部屋に足を踏み入れるまで、私の服の裾をひっぱりながら、じっとこっちを見ていた。
「そんなに掴まなくても出ていかないってば」
蒼佑くんのくりっとした丸い目が、穴が開くくらい見据えてくる。
うん、と嬉しそうに相槌を打ってくれて、ようやくちゃんとした笑顔が見られて落ち着きを取り戻した。
「それで、ここ、どこ?」
ずっと疑問だったことをぶつけてみるけど、こっちと足を運んだ部屋は、大きいわりにろくに家具も置かれてなくて、あたりをきょろきょろと見回してしまう。
テレビと、雑に畳まれた布団と、段ボールがひとつだけ、ぽつん、と部屋に配置されていた。
配置というには乱暴かもしれない。
テレビが床に直接置かれているのを初めて見て、この世の「あえて」のおしゃれがこんなところまで進んだのかと、衝撃が走った。
「ずいぶんシンプルな……」
「整然としてるでしょ」
蒼佑くんの言葉に、ああ、おしゃれじゃなかったのか、と訳も分からず納得した。
「座って」