今日、29を迎えようとしている。

生憎、誕生日当日は平日で、校了直後のたるんだ空気が身に染みる。




「佐伯さぁんっ! 飲みに行きません? ようやく区切りもつきましたし〜」



 いいですね、と答える前に、中島くんが大きな声を発した。



「ああ! 佐伯さん、今日誕生日っすもんね!」



 みんなの前で言わなくてもいいじゃない。アラサー女の、一番焦りの生じる時期に。若さが時に恨めしい。






「あれ? てかなんで知ってるの? あたし中島くんに言ったことあったけ?」


 何の気なしに投げかけた質問だったけど、中島くんは口をつぐんで、そんな彼を相田さんが苦笑いして見ていた。



 聞いてはいけないことだったのかと、少しだけ重くなった空気が告げてくる。今すぐこの空気を打破するためには、、私が一肌、脱ぐべきか。




「い、行きましょう! 中島くんも、ね? 29ですし、この際ケーキにろうそく29本たててくださいよ!」


 29本という、ケーキにたてるには多すぎる数のろうそくの火が、煌々と燃えさかるのを、身体で必死に表した。

メラメラ燃える炎を、手と指を忙しなくヒラヒラさせて表現してみたけど、校了間際で酷使していた手が攣って、いてて、と顔をしかめた。




「やばいっすね。老化がすでに……?」

「違うじゃん! もっと優しくするとこじゃん!」



 先ほどの空気と一変して、ゆるやかなのを感じ取れてほっとしたのもつかの間、



「そうだよぉ。ていうか中島くん死刑」