今日は外にランチに行こうと決めて、伸びをする。

最近は忙しい日が続いていて、自分の机でコンビニ弁当ばかり食べていたから、久しぶりの外でのランチにほんの少しテンションが上がる。

あれ、私今ちょっと女子っぽいかも、なんて自画自賛もいいところだ。






 いらっしゃいませー、と可愛い声で迎え入れてくれるお店は、数少ない私のレパートリーの中にある一つ。



「おひとりさまですか?」

「はい」

「本日も喫煙席でよろしいですか?」



 よく来るお店は、既に顔なじみになっていて、私が喫煙者なことも覚えていてくれている。



「あっ、今日は禁煙席にします。煙草、切れちゃって今持ってないので」

「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」



 案内された席は普段の喫煙席と正反対で、窓の光でキラキラしている。見晴らしもいい。健全なランチタイムだ。

ハンバーク定食を注文して、外の景色に目を向けまどろんでいると、後ろから声をかけられた。



「佐伯さん?」



 名前がすぐに出て来なかった。同じビルの下の階に入っている会社の人、というのは覚えている。

必死に思い出そうとしていると、その女性は空気を読んでくれたのか、自分から話しを始めてくれた。



「倉橋恵美っていいます。お隣いいですか?」

「あっ、お疲れさまです。すみません、どうぞどうぞ」



 椅子を引いて、こちらにどうぞと促す。



「ありがとうございます。ごめんなさい、突然ご一緒して」

「いえっ、とんでもない。私のほうこそ、お名前存じ上げなくてすみません……」


 ハキハキとした物言いが好印象な女性だった。こんな失態も笑い飛ばしてくれているのがせめてもの救いだと、思わず手を合わせて拝みたくなる。


「ふふ、知らなくて当然ですよー。ちゃんと話したのは今日が初めてですから」

「あれ、そうでしたっけ? そっか、エレベーターでよく見るからかな、話したことあると思ってました……」



 すみませんと、小さく頭を下げた。



「今さらですが、佐伯百合子と言います。よろしくお願いします、倉橋さん」

「こちらこそ! ずっとお話ししてみたいなと思っていたんですけど、なかなかタイミングが合わなくて」

「そうなんですか? わ、嬉しい! ありがとうございます」



 話をしたのは初めてだったけれど、顔見知りだったこともあって、会話が尽きることはなかった。



「佐伯さん、四つ葉出版よね?」

「はい」

「編集部でしょ」



 えっ、と驚きの声をあげた。「すごい! どうしてわかるんですか?」と、感心して、思わず顔を凝視してしまった。



「やっぱりか〜。1週間くらい前、何日か会社に泊まってなかった? 服が同じだったの見て、そうかもって思ったんだよね。泊まり込む部署なんて、だいたい編集かなって思ってね」

「わあ、よく見てらっしゃいますね。すごいなあ」

「全員ってわけじゃないよ。佐伯さん、わりと目立つから、目がいくしね」

「えっ、……もしかして、臭いますか!?」



 腕を鼻に近づけて、クンクンと嗅ぐそぶりを見せると、ぶはっとこらえきれない笑い声が聞こえてきた。



「あはははは! 何それ、全然違うから! 佐伯さんて面白キャラなの!? 意外〜」