翌日はろくに寝ないまま、父親のお見舞いにいって、帰りの新幹線の中では爆睡していた。

そのときも瑞樹が隣に座っていたけれど、何せ爆睡していたものだから、道中全く会話もせず、唯一ゆっくり話したのは、東京に戻ってからだった。


けれどすぐに、ばいばい、と地下鉄の乗り換えで、手を振って別れた。









 ただいまー、と声をかけたら虚しく自分の声だけが響いた。部屋に入ると、もぬけの殻で、数か月前まで当たり前の光景だったはずなのに、どこか虚無感に駆られた。



「つまんないの」



 キャリーケースから荷物も取り出さず、ソファーに身を投げた。




「結婚式の話、蒼佑くんにしたかったのに」



 独りよがりな文句を言って、クッションに顔を埋めた。



「お、み、や、げ、か、っ、て、き、た、よ、と。送信!」



 携帯を天に掲げる。そんなことをしても電波がよくなるわけではないのだけれど、そうやって、帰宅を伝えるLINEをした。その日は、既読がつかなかった。












 数日後、彼が家にやってきた。

結婚式どうだった? と話したかった事を先に口にしてくれて、すっごいよかった! と興奮冷めやらぬ勢いで話した。



マシンガンみたいに続けて出てくる言葉は、しばらく止めることができなかったが、ずっと、うん、そっか、へえ、おれも見たかったな、とにこにこ笑って聞いてくれた。




「瑞樹と仲直りした?」

「え?」

「LINE。百合子ちゃん、怒らせた、ってくれてたじゃない」





 そうだ、と思い出して、新幹線の車内で話した会話を、蒼佑くんにも説明した。



誕生日を蒼佑くんに祝ってもらったことも、温泉に行ったことも、誕生日プレゼントにピンキーリングをもらったことも。

「なんて反応してた?」と瑞樹の様子を気にしていたから、ふーんって興味なさそうだった、とありのままを話した。

それで瑞樹が怒ったのかと不思議そうにしていて、あと恵美と知り合いみたいだったから、恵美のことも話したかな、と伝えた。





「恵美? ……って誰だっけ」



 天井を見上げてみたり、胡坐に座りなおしてみたり、思い出そうと必死に試していたけど、記憶にないと吐露した。



「蒼佑くんと一番最初に会ったときだよ。飲んだじゃん、創くんと恵美と四人で」

「……あ! ああ、はいはい、創の親戚だっけ?」

「いとこね」

「あー、そうだった」



 思い出してくれたのか、わかったあの子ね、と手のひらにぽん、と拳を置いた。




「その恵美ちゃんと瑞樹がなんなの?」

「……友達?」

「なんで疑問形?」

「だって、それがよくわかんないんだよ。知り合いだとは思うんだけど、それ以上は、なんかよくわかんない」



 教えてくれなかったから、とへそを曲げる。

それだけじゃよくわからないね、と諭される。仲直りはできたの? という問いには、わからない、とがっくり肩を落とした。