何か、気に障ることを言ったのだろうか。



怒鳴ったわけではないが、確実に、怒っている顔。

こんなときくらいは口も慎もう。余計なこと言って機嫌を損ねたくはない、と後悔の念が拭えない。

思いのほか重い空気になって、地元に着くまで、口数が極端に減ってしまった。





気まずくて手持無沙汰になり、「瑞樹のこと怒らせたかも こっちは不穏な空気です」と蒼佑くんにLINEを送った。









 実家に帰ったのは、半年ぶりくらいだった。

仕事の都合上、お盆も年末年始もゆっくり帰省することができない。いつもは帰省ラッシュから時期をずらし、一週間ほど実家でごろごろする。



「りーんこ〜。凛子ちゃーん」



 目に入れても痛くないほど可愛がっている、姪っ子に抱き着いた。

姉は結婚して、普段は実家とは別のところで旦那と娘と三人で仲睦まじく暮らしている。私が帰るときにはいつも、都合をつけて帰ってきてくれる。



「あんた、明日だからって油売ってないで、準備しな」



 帰って早々、姉にぼやかれる。

しっかりもので世話好きで、趣味はない。しいていえば、趣味は子供の世話だという姉は自分と正反対で、尊敬している人の一人だ。



「ちょっとくらい凛に癒されたっていいじゃん!」



 東京ってさあ、疲れるんだよ、と姪の凛子のぷよぷよしたお腹に顔をうずめる。



ゆりちゃん、くすぐったい、じゃーまーっ、と結構な力でじたばた嫌がられて、「凛……おっきくなったね……」と子供の成長に感動した。

今しがたあんなに嫌がっていたくせに、抱っこして、とねだってきて、その可愛さに免じて、三倍くらいサービスしてあげた。




「お父さんは?」



 明日一緒に行くよね? ときょろきょろあたりを見回した。

 
結婚式には、幼馴染で同級生の賢二、その奥さんになる中学校の後輩の晴夏の友人としてではなく、親族側で参加することになっている。

親族といっても、親戚なのは親であって、私の代にまでなると、さらさらの水くらい薄い血縁関係だとは思うけど。

もとより父親が幼馴染で、長い付き合いというのは知っていたから、ついでに私もそちらの席でご一緒に、というのは、まあわかる。



「お父さんねえ。……ぎっくり腰」



 今入院してるのよね、と母親が笑っていた。



「なにやってんだ! うわー、やっぱ歳とったな……」