内風呂付の和室は、部屋の中だけでもしばらく生活できそうな空間で、こんなところに1泊2日なんて贅沢だな、と窓を開ける。

きれいな空気をめいっぱい吸い込んで、連れてきてくれてありがとう、と笑った。



「せっかくだから、まわり、ちょっと散歩しない?」



 都内から数時間離れただけで、流れる時間が緩やかだ。

日頃の忙しなさともかけ離れて……というには、何にもない日もそこそこ楽しくやっているわけで、なんだろう、もしかしたら毎日幸せに過ごしているんじゃないかと再認識した。



「すごい。鯉が泳いでるよ……。きれー…」



 そんな独り言みたいな呟きにも、「百合子ちゃんのほうがきれいだよ」と茶化してきて、ばか、と軽く小突いた。






 夜は豪華なお造りが出てきて、小さなお鍋もぐつぐつといい香りを漂わせている。

お酒もたくさん種類があって、ビールに日本酒、焼酎。米焼酎もあって、ほろ酔い気分を気持ちよく味わえた。



ご飯をたらふく食べた後は、お待ちかねとばかりにお風呂に誘われて、「お腹出てるから、一緒に入るの嫌だ」と言っても聞かず、結局は二人で入った。



その日は夜も雲ひとつなく晴れていて、まんまるの満月が拝めた。



そのあとは二つ並んだ布団を一つしか使わなくて、あまりにもドラマチックだったから、「蒼佑くん、死ぬの?」と冗談が口をついて出た。

「おれまだ死にたくないよ」と目じりを下げて、軽口をたたいて笑いあった。







「温泉に来た甲斐あったよ」

「すっごい高いけどね」

「値段はいいの!」

「いや、よくないよ」



 一緒に天を仰ぎながら、ぺちゃくちゃと会話が続く。値段の話をしたら、むう、とわざとらしく声に出すから、



「10年に1回くらいだったら、また来たいね」



 と隣を向くと、急に口を塞がれて、シーツを少し、汚してしまった。





















「じゃあ、行ってくるね」



 結婚式に参列するため、ごろごろとキャリーケースを転がした。



「浮気しないでね」

「しないわ!」



 軽い口調だったけれど、きつく忠告しつつも、わざわざエントランスまで降りて見送ってくれた。当然、それは私の住んでいるマンションであって、蒼佑くんの家ではないけれど。



「でも瑞樹と話すなっていうのは無理かも」



 眉毛を下げて、あらかじめ、言っておく。すんなりと、それは気にしなくてもいいよ、と送り出してくれた。