6月10日の私の誕生日は図らずも不在にすることは決定的で、幼馴染の結婚式の手伝いもあって、どうしても当日はあけられない。

地方に帰るのはちょっとした旅をするくらいの時間がかかってしまって、前日の平日にも休暇をとった。




蒼佑くんがいろんなことを加味してくれて、誕生日が来る前にお祝いさせて、と提案してきた。

もちろんいいよ、と答えたら、温泉行くから楽な格好で来てね、と最低限の諸注意だけ述べて、あとは当日をお楽しみに、と楽し気に話していた。






 出かける当日は、蒼佑くんが車で家まで迎えに来てくれて、少し遠出をするのかな、とすぐに予想がついた。着替えも用意してねと行っていたから。



温泉にいくのは、実家に帰ったときに、家族とふらっと行ったきりだ。

温泉は大好きだけど、東京で過ごしていると、あまり行く機会に恵まれなくて、柄にもなく心躍っていた。





 高速に乗って、1時間と少しくらいだろうか、車は走り続けていた。

途中で、助手席に乗っているのは暇じゃないかと言われたけど、車に乗るのは嫌いじゃない。どちらかというと運転するのも好きだし、車にしばらく何をなくとも走って過ごすのは苦ではない。



そうこうしているうちに、厳かな景観の旅館の前に車が停まった。

入口の前で女将さんやら仲居さんやらが出迎えてくれ、さらに「お車のキーお預かり致します」と、旅館の人がどこかに車を持っていた時点で、身体が急に強ばった。

彼の服の裾を引っ張って、ちら、と蒼佑くんを見ると、誇らしげな顔をしていて、私はといえば身の置き所をなくしていた。







 部屋に案内され、二人きりになったところで、ようやく口を開いた。



「蒼佑くん、ここいくらしたの。気軽な恰好でくるところじゃないじゃん……!」



 自分の数少ない、出かけるのに耐えうる服の一つ。

気候も穏やかで、軽やかな素材のたっぷりとしたフォルムのブラウス、それに合わせた少しタイトなデザインのスカートでさえ、この場所にはそぐわない気がした。



「そんなことない! かわいいよ」



 ちょっと谷間も見えてえろい、そう言って部屋の中をうろうろ歩く彼に、普通にしてたら見えないでしょ、とこぶしをぐりぐり押しつけた。