彼氏彼女の間柄になって、ほんの数秒でぎゅっと抱きしめられたのには驚いたけれど。
同時に小さな声で、「他の男とあんまり仲良くすんなよな」と囁かれたとき、この言葉の意味がわかって、少し対等になれた気がした。
大学に進学しても、二人の間に変化はなかった。私は地方の大学で、瑞樹は東京の大学に進学したけれど、遠距離なりにうまくやっていたと思う。
二人に変化が訪れたのは、社会人になってからのことだった。
どちらも遠慮なく喋るほうだったからか、口喧嘩はよくあることだった。変わったのは瑞樹の態度だったと感じている。
社会人になると、会社のつき合いで同性・異性にかかわらず、お酒の席や何やらに誘われることも多くなった。仲の良い同僚や、同業他社の知り合いが増えてきたのもこの時だ。
学生時代は知らず知らずのうちに友人関係をセーブしていたのか、異性の友人は数えるほどしかいなかった。それも、すべて彼氏の瑞樹も把握している程度の人数。ほとんどの人が、共通の友人だったことも、瑞樹に平穏を与えていたのだと思う。
けれど、社会人になったらそうはいかない。
さすがに二人きり、ということはまずないが、大勢の中に当然男性社員がいることもある。
少しずつではあるけれど、束縛がひどくなっているのには気づいていた。もとより、瑞樹は嫉妬深いほうだとは理解していたつもりだったが、それに疑問に抱くまでは時間がかかった。
LINEや電話で毎日連絡をとり、仕事が休みの日に会うだけでは事足りず、社会人になってすぐに半同棲状態になった。
他人と住むのは煩わしいと思っていたのに、それでも、毎日顔を見ることができて、意気揚々としていた——けれど。
休みの日は、一人で出かけるのを抑制されるようになった。仕事は私のほうが出社時間が遅いぶん、退社するのも遅かった。にもかかわらず、毎日迎えに来るようになった。
人と感覚がずれているのか、束縛されているというよりも、帰りが一人ではないことのほうが嬉しく感じていた。
刻々と別れが近づいてきているのにも気づかなくて、世間が浮かれるクリスマス、決定的な一言を突き付けられた。
「好きな子できたから別れる」
それからは、よく覚えていない。
何が原因で、何が引き金だったのか……。
行き過ぎた束縛に、少しばかり困惑していたのは確かだけれど、それを疎ましく思って別れたんだっけ?