これは何なのだろう。


画面にヒビの入ったスマートフォンを握り、届いた沢山のLINEスタンプを見つめながら、29歳独身彼氏無しの菜々子は小さく首をひねる。

開いたトーク画面には可愛らしいスタンプが今にも動き出しそうに、というか実際に動いているものも混ざってはいるけれど、とにかく動き出しそうに並んでいて、まるでパレードのようだ。
その大半が、キャラクターにニコニコと笑わせ、ハートを振り蒔かせている。
うさぎ同士がキスをしたり、猫が猫の頭を撫でたり。それまるで付き合いたての恋人同士のに寄り添っては、時折こちらの反応を伺うように画面を見る私を無言で見つめてくる。



...これはいったい、何なのだろう。

パレードの主催者、及び実行委員は、菜々子より3つ年上、32歳の冬也。
冷たそうな名前に似合わない、ピンク色に染められた画面を可愛いとさえ感じながら、パレードへのコメントに頭を悩ませた。

きっと彼は私のことが好きなのだと思う。
重ねた年齢と、過去の終わってしまった切ない恋愛と共に、自分自身への劣等感を感じざるを得ない菜々子にとっての冬也からのアプローチ。
自分にもまだ、うさぎや猫のように寄り添う相手が存在してくれる。
いや、そんな遠回しな表現で気持ちを隠せないほどに、浮き足立った。
舞い上がった。
友人にも報告した。なにより嬉しかった。
もちろん、菜々子も冬也に対して特別な感情を芽生えさせていたからこそ、尚更に。
まるでそれは彼が与えてくれた自信だった。

いまの気持ちを大切にしたい。
年齢とともに増えてしまった遊びをした夜も、お酒の力を借りた夜も、幾度となく身体を預けた日の自分が偽物であったような気さえするほど、慎重で、臆病になった心を奮いたたせ、それでも1つ1つ、冬也の意思を汲み取れるように、と、全神経を小さな機械に集中できるように、文字通り手探りで言葉を探す。