ころ、ばなかった・・・?


「焦った・・・。」


彼の呟きが耳にかかって。
反射的にありがとうと零しそうになった唇を噛み締めて、グッと厚い胸を押した。


『離して、』

身体に隙間が空いたのも束の間、ここぞとばかりに強く抱き締められる。


「まじで何?何を怒ってんの?」

『だから、』

「言ってよ。澪を不快にさせたこと、ちゃんと謝るから。」


“不快”
その響きに思わず顔を上げてしまった。


『ふかい・・・だったわけじゃなくて、』


思ってたよりもずっと、真剣な眼差しが降りて来て。
声が震える。


『怒ってた、わけでもなくて、』


解けていく。身体を包む岩田さんの体温が、絡まっていた心と頭を、じんわりと解いていく。


『私、悲しくて。』


そこまで言ったら、ついに頬が濡れてしまった。


「悲しい?俺、なんか言った?」

『なんか、“毎度のこと”みたく、言うからっ・・・』

「毎度?は?え、てか泣いてる?!」

『もういー・・・岩田さんなんて、ほんとにもういー・・・』



ほら、やっぱり伝わらない。

ぼたぼた落ちてくる涙が悔しくて、もう一度厚い胸を押したら。

背けた後頭部を、無理矢理に引き戻された。



『だから、はなし』














言葉も息も止まった。熱い口内に、唇が飲み込まれたから。






『・・・ちょっ、!・・・ふっ・・・』



乱暴なキス。
だけど、決して力任せではない岩田さんのキスは、つまらない意地を柔らかく奪っていく。



だんだん頭が落ち着いてくる頃。その頃には優しい啄ばみになっていた唇は、ゆっくりと離れた。








『・・・外でキスするのなんて、初めてです。』


今日1日、抑えていた恋しさが込み上げて来て、おでこを首元に埋める。


「ごめん。」

『悪いと思ってないくせに。』

「そうだね。」


聞こえてくる心音が、ますます恋しさを煽る。


「全然俺の話、聞かなそうだったからさ。」

『勝手です。なんで今日も、あんな簡単にみんなに話しちゃうの?』

「あー・・・うーん・・・。それはね、そうだね。まぁ、ちょっと。」

『内緒にしようって言ったじゃないですか。約束したのに。
私、社内恋愛するのなんて初めてなんですよ?明日からやりにくくなるじゃないですか。』

「大丈夫、フォローするから。」

『毎回そうしてるから?』

「え?」


心が痛い。


『毎回岩田さんは、社内恋愛の都度そうしてるから?』


この人が好きすぎて、心が痛い。