だけどそんな同期からの誘いも、今日だけは受けるわけにはいかないのだ。

「ごめん、俺パス」

「は?なんで。……まさかお前、黙って女と会うんじゃねえだろうな」

会える可能性はものすごく低いんだけどね、とは言わずに笑ってごまかしておく。

「なんだよ、久しぶりに全員揃うと思ったのによ」

「本当ごめん。だけどこっちの約束のほうが先だったんだ」

「あ?そうなのか?」

左腕に付けた時計をチラッと見て、時間を確認する。もう帰ってもいいだろう。
椅子に引っ掛けてあるコートとマフラーを手に取って立ち上がった。

不思議そうな顔の柴田には申し訳ないけど、これだけは譲れない。

「ああ。10年前に約束してたんだからな」

じゃお先、と手を挙げてフロアを出て、エレベーターへと向かった。

何でもない風に言ったけど、内心ではすごく緊張している。
今日が、俺の人生の大きなターニングポイントになると分かってるからだ。

あの場所に菜々がいるか、いないか。
どちらにせよ、会えなかったら諦めようと決めていた。
その場合、彼女のことを思い出すのは、今日で最後だ。