——…錆びれた鉄をつないだだけの様な階段は一段、足をかけるだけでギシギシと音を立てる。


そんな階段を支えるようにしてそびえ立つアパート。治安が良いとはけして言えないだろう場所にあるソレは俺の帰る場所だった。


夕方に差し掛かる時間にはアパート前のごみ捨てにカラスが群がりその場所を一層に不気味なものへと化す。


狭い部屋。


大人がやっと二人眠れるような居間と簡単キッチンが置かれ、洗面所があるだけの間取り。低い机の上には母親が毎日使っていた大量の化粧品と最早いつからそこにあるのか分らないカップ麺の食べ終えたあとのゴミ。


生活感はある。ただ、衛生面を考えるならば最悪な環境だった。食事はそこら辺にあるものを適当に食べていた記憶がある。


何もない時は3日ほど食べないこともあったが、どうも自分は食にあまり関心が無いらしい。


いつのまにか何を食べても味が分からなくなっていた。


きっとまともな物を食べていなかったからだろう。口にするものと言えばコンビニ弁当やスナック菓子が大半を占めていたような気がする。


俺はそんな場所で母親と二人暮らしをしていた。水商売をしている母親は帰ってくるのがいつも朝方だった。


父親とは一度も会った事がない。いつの間にか元よりいない者として俺自身もその事には触れた事はなかった。


本来なら、この時の俺は黄色い帽子を被り、ランドセルを背負い学校へ行っている年頃のハズだった。