こういう時、持ち前のポジティブ精神は役に立つ。どんなにひどい扱いを受けても泣かないと決めた。


気付けば月日は経ち、たらい回しされ続けた果てに私は遠縁に当たる老夫婦に預けられ大切に育ててもらった。


美和子(みわこ)さんと武爾(たけじ)さん。


初めて、大人の人に向けられた優しい瞳は一生私の目に焼きついて離れないと思う。


二人に私は今まで誰も教えてくれなかった生きる術を一から教えてもらった。


いつもは優しい美和子さんは礼儀作法には厳しかったけどそれも私を思っての事だった。お箸の持ち方を教えてくれたのも教養を身に付けさせてくれたのも美和子さんだった。


ほかの子よりも何歳も遅れて始めたお箸の使い方は変な癖が既に付いて直すのに時間がかかった。


それでも美和子さんは根気強く教えてくれた。


武爾さんは、そんな私をいつも褒めて伸ばそうとしてくれた。


温かい人たち……だった。


二人と一緒に居る事が出来たのは結局3年だけだったから。