結局、その後も何度考えても昨日の事なのに全くと言っていいほど思い出せなかった。


ベッドの上で膝を抱えてどのくらい時間が経ったか分らない。


ま、思い出せないなら別にいいか。


今ほど、自分がポジティブ思考の人間で良かったと思ったことはないかもしれない。


それにしても、広い所だな。誰のお家なんだろ?


そんな事を考えてると、ガチャリと扉が開く音がした。


私の視線の先には意識を手放す前に見た顔と一致する人物が、男の人にしては美しすぎる彼が居た。


私の姿を捉えたらしい瞳は漆黒の瞳だった。


そしてどこか楽しそうな笑みを見せた彼は、



『…起きてたのか』



何もかも知っているような口ぶりだった。


彼が私をここに?


でも、もしそうなら何のために?


私の中に謎は増えていくばかりで一向に先が見ない。もういっその事、目の前の彼に聞いてしまおうか。


そこでまたも彼は言葉を投げてよこした。



『…もう、寒くないのか?』


「へぇ……?」



彼の言葉で思い出すのは、彼の胸元に顔を埋めてしまったという失態だった。



「…あ!!大丈夫。あの、…ありがとう」



彼は私をからかう訳でもなくただ



『…そうか』



と、ホッとしたかのように微笑みを浮かべた。


この人、よく笑う人だな…?


これが、私の彼に抱いた印象だった。