【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

 ――パァン!

 その音と共に自身を襲っていた炎は跡形もなく弾け飛び、同時に純白の衣を纏った人物が小さなナイフを手に逃げようとする少女の前へ立ちふさがった。

「幻術の使い手か……力をそのように扱う者に私は容赦しない」

 威厳のある声が地鳴りように響く。握られた食事用のナイフがキュリオの力を受けて銀色の輝きを放っている。
 それを目にした誰もが、あれは神剣に違いない! と思い込むほどにそれは神秘的な輝きを放っていた――。


 王の従者たちが一斉に集まって女を捉え、キュリオは倒れたエリザのもとへ足早に向かうと髪を振り乱したまま気絶した彼女を抱きあげて館へ急いだ。

(……幻術の炎か。記憶を消してやるのが一番だな……)

 腕の中でぐったりとした少女を見つめるキュリオの眉間には深い皺が刻まれており、心を痛めていることがわかる。
 それと同時に今後このようなことは控えるべきだと、民の望みを叶えた自分に責任があることも痛感しているのだ。

「……」

 エリザは心地良く揺られる感覚に薄く目を開いた。
 暗がりの中、狭く明けた視線の先では銀髪の青年が真剣な眼差しで行く先を見つめている。

「あ、あの……」

(……美しい殿方、……どなたかしら?)

 誰かもわからぬ殿方とこれほど接近するのはエリザは初めてだった。
 それは格式高い家柄の娘であることも関係しているが、初めて抱かれた相手がキュリオになるとは彼女自身夢にも思わなかっただろう。

「……目覚めたか。苦しくはないか?」

 エリザの声に視線を下ろした空色の瞳が気遣わし気にこちらの瞳を覗き込む。
 やがて灯に照らされ端正な顔立ちの青年の美貌が徐々に明らかになると、その美しさにしばしば見惚れていたエリザは問われたことを理解し我に返る。

「あ……、ええっ!? あたくしったら……!!」

 初めてこの青年に抱きあげられていることを理解したエリザは耳まで真っ赤に染めながら慌てふためく。

「じっとしていろ」

「きゃっ」

 暴れる肩にわずかな力が込められると、身を固くしたエリザは思わず青年に抱き着いてしまった。

「……」

 何も言わない青年の胸元に顔を埋めながら、いい香りのするこの殿方に激しく胸を高鳴らせるエリザは紛れもなくこれが初恋であった――。