【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

("天命"など都合のいい言葉だと思っていたが……)

 柔らかな光の尾を引いて夜空を舞い宿舎へ戻るキュリオの胸中は穏やかではなかった。
 用意された部屋の扉をくぐる頃にはすっかり規則正しい寝息を繰り返しているアオイを起こしてしまわぬよう寝台にそっと横たえた。

「…………」

 バルコニーへと向けられたキュリオの瞳には、<初代王>の城が眠っている清流へと向けられている。

(現時点では"天命"を否定できるほど確かなものを持ち合わせていないのも事実だ)

 だからといって運命を天に任せるなどという自らの意志を手放すようなやり方はキュリオがもっとも嫌うところだ。
 ましてやそれがアオイにも今後降りかかることを匂わせた彼の発言がますますキュリオの不安を掻き立てる。

 無意識のうちに握りしめられたキュリオの右手。王にとって一心同体とも言える神具はまるで命を宿しているかの如く鼓動し、持ち主である王の感情に反応し力を発揮する。

(神剣が存在する以上、神が存在するのは間違いない。
……ならば、神が決めているのは特定の人物の運命なのか、それとも――)

 この疑問にいつか答えてくれる者が現れたとして、その答えにキュリオが納得できるかどうかはまた別問題である。


 そして、時同じくして――。

 座りなれた長椅子で目を閉じている漆黒の男がひとり。
 彼の頭上では闇の中から這い出て迸(ほとばし)る稲妻が唸り声をあげている。
 この世界の<初代王>に唯一仕えていた彼はまわりの者に多くを語らず、数多の想いを胸に秘めたまま永い刻を生きている。