私は後ろを向けないので、誰が話しているのか全く分からない。


それでも、この時は本当にその人を王子様だと思った。


『N駅〜N駅〜』


駅の名前を告げるアナウンスと共にドアが開く。


すると、40代くらいの男性と、若い大学生くらいの男の人が出て行った。


私も、あの大学生が助けてくれたんだと思い、急いで電車を降りる。


もちろん圭太を連れて。


「え、碧!俺達ここの駅じゃねーよ!」


圭太はまだ痴漢にあったのが私だと気付いてないらしく慌てている。


私はそれを無視して大学生に駆け寄った。


「あの…!」


大学生は痴漢を駅員さんに受け渡している所で、


声をかけるとクルッと振り返った。


その大学生は、焦げ茶色の髪に切れ長の目、


スッと通った鼻筋に薄い唇…つまり、すごく整った顔をしていた。


か、かっこいい…!


じゃなくて!


「さっきは助けてくださ「大丈夫だった!?」」


私がお礼を言おうとした所で、その言葉を遮られた。


心配してくれてるみたい。


「あ…はい。本当にありがとうございました。」


「よく我慢したね。怖かっただろ?」


大学生は、私の頭をポンポンと撫でてくれた。


この人、なんていい人なんだろう…!


痴漢を助けるのも勇気がいるのに、慰めてくれるなんて。


「あの、何かお礼させて下さい!」


私がそう言うと、大学生はニコッと笑った。


その笑顔は無邪気な子供の様で、


不謹慎にも可愛いと思ってしまった。


「そんなんいーよ!俺が勝手にした事だし。」


「でも…」