紗那が…先生の事を好き…


「…い…おい…」


ただそれだけの事なのに。


「…あ…あおい…」


どうして私は…


「あおい…碧!」


誰かに名前を呼ばれて、私はハッと我に返った。


慌てて隣を見るとバカそうな…いやいや、心配そうな顔をした圭太が立っていた。


そうだ、私紗那の荷物を取りにテントに来たんだった…。


「どうしたんだよ、ボーッとして。」


圭太は私の顔を覗き込んで来る。


どさくさに紛れて、ヤツの手が腰に回っていた。


「何でもないよ。それより、どこ行ってたの?皆探してたんだから。」


私はそう言いながら腰にある手をつねる。


「痛…っ!トイレだよ、トイレ!」


「あっそう。別に興味ない。」


より一層強くつねると、ようやく腰から手を離した。


「棒倒しに出るんでしょ?早く行きなよ。」


「おう!しっかり見てろよ、碧!」


「あー、はいはい。見てる見てる。」


なんてね。


本当はすぐに紗那の所行っちゃうんだけど。


私が「見てる」と言ったことがよっぽど嬉しかったのか、圭太はニコニコ笑顔で走り去って行った。


その隙に、急いで荷物を持って保健室へ向かう。


保健室の前まで来ると、中からボソボソと話し声が聞こえた。


私がいない間に藤子ちゃんが戻って来たのかな?


そう思って扉を開けた。


でも、中にいたのは藤子ちゃんではなく…



「先生…」 



先生と紗那が、2人で話している所だった。


紗那の顔からすっかり涙は引いていて。