暗い自室で、俺___飯島 駆は、独り、立ち尽くす。


「何でだよ…」


無意識に力なくもれた声は、あまりに弱弱しく、すぐには自分の声だとは解らなかった。


妙に身体が強張り、スマホを握る右手が小刻みに震える。

俺は、その右手を無理やり目の前に持ち上げ、いつもは大して目を向けない、ニュースサイトを開く。

そして、表示された最新ニュースの一覧に、恐る恐る目を向ける。


___嘘であってくれ。
___さっきリビングで見た【あんなニュース】、見間違いだって証明してくれ。


一行一行を、ゆっくりと目で追う。


サッカー選手の海外への移籍決定だとか、
女優の不倫疑惑だとか、
人気アイドル主演映画が製作決定だとか、
野菜の値上がりだとか、
国連のお堅い会議のことだとか。

雑多な情報の中に、俺は、ある一行を見つけた。

いや、見つけてしまった。


『名古屋市・暴走トラック 女子高生が意識不明』


俺は、尋常じゃない量の汗が溢れ出したのを感じる。

【あのニュース】だ。

俺が、家族のいるリビングから逃げ出してしまった、理由のもとの。


震えの止まらない指で、恐々と、記事のタイトルをタップする。

『別人かもしれない』という、僅かな希望を捨て切れなかった。