白い光が目の前に浮かんだ。車のヘッドライトっぽい。あれ、私、死ぬのかな?って思った瞬間、「ばかやろー!お前死にたいのか!」男の人が車から傘を差しながら降りて来た。怒ってるようだった。
「す、すみません!」「こんな雨の日の夜中に、女一人で出歩くもんじゃないよ!危ないじゃん」「こんなとこで何やってんの??」
聞かれた瞬間、頭の中に恐怖が襲ってきた。「えっと、あのわかんないです」「、、え?」
「えっと、私、なんでここにいるのかわかんないんです」「、、、??」
気づいたら、道路に立ってて、車にはねられそうになってた。
目の前の人は、困惑しているような、いぶかしげな表情を浮かべている。
「事故にでも遭った?」「はい??」
「いや、事故って頭売ったりしたショックで、一時的な記憶喪失になったりするからさ、
いってることがほんとだとしてだけどね」「とりあえず、病院か警察に行って、」「警察は行きたくない!」
「いやいや、事故だったら行かな」何故かわからないけど、警察という言葉をきいたとたん、怖くなった。男の人は、携帯を出して電話を掛けようとした。
咄嗟に腕をつかんだ。「ちょ!お前なにすんだよ!!」「警察ヤダ!関わりたくない!」なぜか自分でも分からないけど、とにかくいやだった。
男の人はしばらく固まってた。暗くて表情が分からなかった。私の腕をつかみ返して、歩き出した。
「ちょ!、離して下さい!」「うるさい」
車の前まで来ると「車に乗るか、警察に行くか、どっちか選んで」「何でですか!」「自分が誰かどこに住んでたのかもわかんないままで、ほっといたらどうなるか分かんないし、お前見た感じ高校生っぽいし、未成年ほっとけないだろ」
静かに置いといていてほしい気持ちが強かったけど、夜中で怖かったし、どうなってもいいという思いだった。「車に乗ります」無言でうなずいて運転席に座っていった。助手席に乗り込んで、シートベルトを締めると、車はゆっくりと出発しだした。社内にかかってる音楽が静かで、しばらくは無言だった。
「本当なんも覚えてないの?」「、、覚えてないです」ため息をついた。男の人もため息をついた。
「俺は中島智也。一応、精神科医だけど、怪我ぐらいだったら手当てできるから」
お医者さんだったんだ。「こんな時間まで仕事ですか?」腕時計は、2時を指すところだった。「いや、別の用事で、帰る途中で人間を引きそうになった」「そうですか、、今から病院行くんですか?」
「もう日曜日になったから、病院あいてないよ」「あ、そうか」
「俺んち泊めたげるよ。一晩ぐらいだったら何とかなるし」
「え??」「記憶喪失の人間ほり出せないし、病院あいてないんだったら、しかたないだろ」
いや、さっき会ったばかりの男の家に行くなんてできない。けど、心細い思いが強かった。
「はい、お願いします、、」
「お、素直で結構」若干馬鹿にされた気がした。
そうこうするうちにマンションの駐車場に入っていった。
高そうなマンションだった。促されてエレベーターで昇って行った。お医者さんだから、給料いいからこういうところに住めるんだろなと思いながら、部屋に通された。

部屋はとてもきれいで、生活感があんまりなかった。
「お風呂使っていいよ」と言われたので、先に入らせてもらうことにした。とにかく疲れていた。

自室にかえると、机の中から写真立てを出した。写真の中の二人は笑顔で写っていた。
「成美、、、」車の前に飛び出して来た時に、一瞬成美が現れたのかと思った。成美によく似てる。もしかしたら親戚かもしれない。「俺は罪滅ぼしができるかな?、、」静かにつぶやいた言葉は闇の中に消えていった。雨音はさらに激しくなっていた。時刻は、午前3時を回ろうとしていた。