届かないこの想いを、胸に秘めて。





「ねえねえ、知ってるー?」

「なになに!?」

「なんかねー……」



今日最後の授業が終わって、お手洗いに入ろうとした時、中からふたりの弾んだ声が聞こえた。


私は中に入るタイミングを失って、入口で足を止める。

そのまま息を止めて、ふたりの話し声を聞く。



盗み聞きなんてしたくなかったんだけど、この話は私を引き寄せた。



話を聞いて目が大きく開く。




……それは、ほんとう?
事実?


信じられない……。

だって、いつもそばで明るく楽しく笑っていた桃田さんだよ?!

そんなのありえないよっ。


だってキミと桃田さんは恋人なんだよ!?


私ちゃんと聞いたもん。この耳でしっかり。

2人はあの日結ばれたんだって。




「あ!今日帰り……わっ」


お手洗いから出てきたふたりが私を見て目を丸くさせる。


しまった、と思ったけど、もう見つかってしまったのだから言い訳することも出来ないと悟って彼女たちに聞いた。




「……あ、桃田さんの話?」

「う、うん」

「ほんとだよ〜。桃田さんの二股疑惑」



よくやるよね〜、とイヤミを含んだ声音で笑う彼女にふつふつと怒りが込み上げてきた。



手を強く握る。


もう一度尋ねると、同じ顔をして「本当だよ」と言って私から遠ざかっていった。



……私は地獄耳だなと思った。




『彼氏を取られた子が言ってたよね?!』ともう一人いた女の子が小さな声で曖昧に言ったのを耳にしたから。