「っ……あーあ!フラれちゃった」
ため息混じりの明るい声に、チクリと胸が痛くなる。
私に背を向けた鴇田くんの表情は分からない。
でもきっと泣きたい顔をしているのは確かだと思う。
だって、声が震えていたから。
ついに私も、言っちゃった。
普段日常で言っている『ごめんなさい』は時と場合によって違う感情、色をもたらすことを、いま知った。
私のは、苦しくて悲しいけど、感謝と彼の幸せを願った『ごめんなさい』だ。
そして、灰色と水色、薄ら赤色と黄色が混ざった空が鴇田くんの見えている方向に見えた。
鴇田くん、これからも変わらず仲良くしてくれる?
笑顔で挨拶してくれるかな?
「長田さん」
「鴇田くん」
声がほぼ同時に重なった。
先に呼んだのは鴇田くんの方だと思ったから先に話すよう促した。
彼は私に向き直って手を差し出す。それを凝視した。
これは、握手をせがまれているのかな?
「長田さん、これからは友達として、よろしくお願いします!」
頭を下げた彼の声が真っ直ぐに心に届いた。
まだ『好き』と言われてるような気がして、小さく胸が高鳴る。
でもこれは、友達として。友達になるための第2の告白だと思う。
目の前の彼の手が震えてる。
それを優しく包むようにして大きな手を握った。
「はいっ、よろしくお願いします」
そう答えたのはまるでプロポーズの返事みたいで、鴇田くんもそれを連想したらしく、一緒に笑った。
彼の目に小さく光るものが見えたけど、気づかないふりをしようと思う。
「ありがとう。私を好きになってくれて」
ありがとう。最後まで想ってくれて。
私に向けた彼の表情は一番輝いていた。



