「ただいま」

リビングの扉を開けて、絶対に返事が来ないことを知っていながらもう一度同じ言葉をかけた。

案の定、"ただいま"はひとりぼっちのまま。


「…遅いじゃない」

ソファーの向こう側いつもより低い女性の声が聞こえる。


「うん。勉強してきたんだよ、お義母さん」


私がそう言うと同時に、お義母さんは姿を現した。

昼間には綺麗にセットしている髪がボサボサとしている。

顳顬〔こめかみ〕の白い肌には青筋が浮き出ている。


「何してたのよ」

「勉強だってば」

「なわけないでしょう!こんな遅くまで…っ、あんたのことだからどうせ遊んでたんでしょ?いい御身分ね!」

「違うって」

「塾だって今日は休みじゃないっ!大人を騙そうなんて…、大人を舐めるんじゃないわよ!」

「だからちがっ」