「ユア、」

「本当にごめん。また今度聞くから」


もう少し時間をくれたら、決心着くと思うし。


「この前、実波さんと話したの」

「は?」

「実波さんって、いい人だよね」


敵に塩を送るってこういうことを言うのかな。

っていうか、そもそも私は敵になれてるのかな。


私は偽善者だとしても、善をしていなければ不安になる。


「約束して。今度必ず、俺の話聞くって」

「うん、わかった」


湊はどこまでもズルい男だ。

約束なんてしてしまったら、私は逃げられないとわかっているんだろう。


私は湊に背を向けて、教室へ向かった。

急がないと次の補習が始まってしまう。


だけど、角を曲がり湊から見えなくなったところで力がふっと抜けてしゃがみ込んだ。


奈落の底というものがあるのなら、いっそ落ちてしまいたい。