今となっては、湊の優しさも、苦しくて辛いだけ。


息が苦しくて、すうっと大きく息を吸ったところで、私は立ち上がった。


「でも、ユア…」

「ごめん、私帰るね」

「え、」

「夏期講習あったの忘れてた」


もちろん夏期講習なんてものは今日はない。

でも此処にいるのは辛すぎて、耐えられなかった。


「さよなら」

「ば、バイバイっ」


早々と溜まり場をあとにした私に、後ろから声をかけてきたのは佳穂だけだった。


溜まり場を出ると、うるさいぐらいの蝉の声が耳に入ってきた。

いつもはうざったく感じるノイズも今日は有難い。



私は深く深く、深呼吸をした。


ああ、もう絶対に戻れない。





───私は、湊のことが好きだ。