目を覚ますともうしっかりと夜の帷(とばり)が下りていた。部屋の電気は消されていて目の前には冥冥たる闇が広がっていた。

体に力を入れてみると思いの外動かすことが出来たので、大事な物を扱うようにゆっくりと慎重に状態を起こした。

刹那、目の前に広がる闇の中に人の気配を感じた。

「誰かいるのか」
返答はない。

「気の所為か…」

人がいないとなればここには誰もいないのだろう。
夜の病院と言うと死人が歩いているとか、幽霊が出るとか、様々な噂があるが僕はそんなこと信じていない。合理主義だからだ。

たくさん寝たせいでもう一度眠る気にはならず、取り敢えず電気をつけようと思い、立ち上がろうとしたその時、また人の気配を感じた。

「誰かいるなら返事をしてくれ。僕は病み上がりでイタズラに付き合ってはやれないんだ。」

僕の声は無情に部屋に響いて静寂が訪れる。
事故の後遺症でなにか残ってしまったのかもしれない。

ベッドから足を下ろしてゆっくりと立ち上がった。
すると目の前の闇にうっすら、ほんのうっすらと人のようなものが見えた。

「誰だ!こんな夜中に!迷惑なんだ、やめてくれ!」
「………ようやく、気付いてくれたんだね」

落ち着いた女の声が闇の中から発せられ、うっすらとしていた姿が浮かび上がった。

平凡な体型で綺麗なサラサラとした髪が腰まで流れる凛とした女性が現れた。
でもどこか不鮮明なその姿は、ただの人ではないと、非科学を信じない僕が思ってしまった。

「生きてて本当に良かったよ、浩介くん。」
「なんで僕の名前を知ってる。」
「近くでずっと見てきたからだよ。」
「ち、近くで…?ていうかなんでここにいるんだ!僕の病室だぞ、お前は一体何者なんだよ!」

「私はね、幽霊だよ。」