「……すけ、……すけ」

ぼんやりとした意識の僕の傍らで声がした。

「こうすけ、こうすけ、浩介!」

段々と声量が大きくなって寝起きのように徐々に意識がはっきりしてきた。
どうやら声量が大きくなっていたわけではなく僕の意識がハッキリとしていくことて聴力が次第に戻っていったのだろう。
ずっと僕の名前を大声で呼んでいる。

体が思うように動かない。首から上は辛うじて自分の意思で動かすことができそうだ。

「んう…う…」

喋ることもままならない状態だったが、僕の傍らにいたそれは歓声を上げた。
視界はぼんやりしていたが徐々に回復していった。

「浩介、良かった。本当に良かった。」

声のする方に顔を向けると母がいい年こいて大粒の涙を零している。
その隣には白衣とマスクを着用した男が立っていた。

「先生、ありがとうございます。ありがとうございます。」

母がこれでもかというぐらいにその男に深々と頭を下げた。

「目が覚めて本当に良かったですね。まだ完治している訳では無いので暫くは安静にしておいて下さい。」

どうやらこのお医者さんが僕を助けてくれたらしい。
医者がいるという事はここは病院だ。
でもどうして僕は病院に…。

「浩介くん、今は何も考えなくてもいいよ。君は事故にあってこの病院に搬送されてきたんだ。事故の後遺症で今は記憶が曖昧なところがあるだろうから、無理に考え事をするのはよくない。今はしっかり休むんだ。」

医者はそういうとニコッと笑って見せた。
マスクをしていてもわかる程の朗らかさで安心してしまう優しさを纏っている。

先生の助言を親身に受け取り僕は考えることを辞めた。
すると一安心したのか急に睡魔が襲ってきた。
僕はそれに身を委ね眠りについた。