僕は非科学なものは信じない。
神だとかUMAだとか幽霊だとか恋だとか。

神に祈りを捧げる姿は実に滑稽だ。
UMAを探そうなんて、そんなことしてるのはただの暇人だ。
いもしない幽霊に怯えるなんて馬鹿馬鹿しい。
人を好きになるなんて、考えられない。

僕は極めて合理的で実利的な人間だと自負している。
しかし先日の事故でこの考えは一部覆されることとなる。


✱ ✱ ✱

ミーンミーンミーンミーン……。
耳を劈(つんざ)くほどの蝉の鳴き声で目を覚ました。
額から汗がだらだらと垂れて、Tシャツは汗を吸収しすぎてみずみずしさを帯びている。
上空からは一切の遠慮無しに太陽が図々しく僕を照りつける。

若干意識と視界がボヤけていたが、自分が校庭に立っているのはわかった。
ボヤけた視界の中心で、白を基調としたワンビーズを着た髪の長い女の子がサッカーボールを蹴って遊んでいる。

小学生だろうか、とても小柄で華奢な女の子。
彼女の後ろ姿を見ていると懐旧の念に駆られる。

彼女がふとこちらを振り向いた。
遠くて顔ははっきり見えないけど、口がもごもごと動いているのはわかった。
なにか言ってる。でも蝉の声がうるさくて全く聞こえない。

彼女の近くに行こうとするも、思うように体を動かせない。
僕の気持ちを知る由もない蝉の声がより一層大きくなって余計聞こえなくなった。

けど、確かになにかを言ってる。

「こ……け……やく…………よ」

彼女の言葉を受け取るために耳に意識を集中させたが、意識が段々と遠のいていく。

彼女に呼びかけようと試みたが声が出せない。
次第に視界は真っ暗になり完全に意識を失った。