妻に、母に、そして家族になる

でも、幸せだな……。

温かいお湯に浸かっているような幸せに浸っていると、さっきまで口を閉ざしていた信濃さんに声を掛けられる。

「アナタにハルの母親……、私の妻だった人のことを話しておきたいんだ」

この一言で幸せだった感覚が波を引くように消えた。

彼の低い声色から、あまりよくない話の予感が伝わってくる。

自分の顔が薄く映る窓から、信濃さんの方へ視線を移すと、彼は一瞬目だけをこちらに向けた。

見ただけで急かそうとはしてこない。

あくまで決定権は私にあるのだと言ってくれている気がした。

正直言うと、奥さんだった人の話なんて聞きたくない。

彼が奥さんのことを話したいと言っただけで、こんなにも胸が締め付けられるのに、話しを聞いたら胸の痛みが増してしまうような気がした。