あの春、君と出逢ったこと





『お前ら、書くのは終わりだ。

夏休みの補修コース組は、お疲れ様だな』




静まり返った中で、テストを記入していく音だけが聞こえた時間。


そんな時間は、鐘が鳴った瞬間の担任の言葉だけで、あっけなく終わった。




担任が声をかける前に立ち上がり、後ろからテストを回収していく。




隣の煌君も同じようにしてテストを回収している様子を見ると、結構このテストはいけたらしいことがわかる。



……問題は、快斗君だよね⁇




あの日から5日間、煌君にスパルタ指導されてたけど……。



夏休み計画実行のために、快斗君には居てもらわなきゃ困るしね?



『栞莉、大丈夫だったかしら?』



1番前の席に座る翠が、私にテストを手渡しながらそう言って笑う。



『まぁ、大丈夫だったけど……』




そんな翠に曖昧な返事をして、翠の隣の席に視線を向ける。



『おい、快斗。死んでないか?』




『……煌、俺、死んだかも……』



翠の隣の席である快斗君は、煌君の言葉にそう返して頭を抱える。




……微妙な出来だったんだね。





快斗君の様子から結果を察して、赤点が無いことを心の中で祈りながら担任にテストを手渡す。





テストの結果は明日の朝廊下に張り出すらしい。


……テストが始まる前に、担任が大きな声で言っていたのを思い出して、特になんの意味もなく溜息をつく。




『溜息ばっかつくと、幸せが逃げるだろ?』



テストを渡し終えたのか、いつの間にか私の隣に戻ってきていた煌君が、私の頭の上に手を置きながらそう言って笑う。




『今のは、別になんの意味も無いから大丈夫じゃない?』




そんな煌君の手の事についてはあえて触れず、平然とした表情を浮かべてそう返す。



いや、だってね?


この前までは、こうされた時に、手を払いのけて文句言ってやったんだけど。


どうせ、お前がチビだから悪い。って言われて片付けられるオチだし。