『……栞莉チャン、遅れてきたから、ここの桜見れなかったんだっけ?』
『馬鹿ね、快斗。
終業式の時に見てるわよ』
快斗の言葉に翠が返し、会話が終わる。
誰も一言も発しないその沈黙を、桜が、風に揺られながら見下ろす。
『……それに、栞莉も見てるわ。きっと』
桜を見上げながら、誰に言うわけでもなく、ポツリと言った翠に、無意識に俺も快斗も頷いていた。
『……栞莉』
栞莉が息を引き取った後、翠から、クマのキーホルダーを貰った。
栞莉が、俺に似てるって言いながらつくってたらしい。
……結局、あの日来なかったのも倒れたからで。
その事で勘違いして避けた事、謝りきれなかったな。
俺の勘違いで、栞莉と合わなかった事を後悔してるのも、自業自得だ。
そう思いながら、鞄の中からそのキーホルダーを取り出す。
『なぁ、煌。
俺、ずっと気になってたんだけどさ。
そのキーホルダー、クマの背中にチャックついてるだろ?
それ、開けれないのか?』
俺の手の中にあるキーホルダーをまじまじと見ながら快斗がそう言う。
……キーホルダーの背中のチャック、ね。
実は、もらった時、俺も気になって開けてみたら、小さい紙が入っていた。
この2週間で何回も見たその紙は、折れ目がクッキリとついて、少しボロボロになっている。
それでも構わずに、もう一度、快斗達にバレない様に取り出したその紙を見る。
『……行くぞ、煌』
いつもと違う立場で快斗に呼ばれ、紙を丁寧にキーホルダーに収め、快斗と翠のいる方に早足で向かう。
……栞莉。
俺は、1つだけ。
何度聞かれても、同じ事が言える事があるんだよ。
それは、誰にもきっと、言うことはないと思うけどな。
『背中に何が入ってるのか、私達には教えてくれないのね』
そう言って俺を睨みつける翠から視線を逸らす。
これは、俺と栞莉だけの秘密だ。