あの春、君と出逢ったこと





『……煌、今日は、もう遅い』


俺の後ろで、いつもの雰囲気ではない快斗がそう言って、俺の腕を掴み、立ち上がらせる。


『……快斗、俺、今日、ここに泊まってもいいと思うか?』


快斗に腕を掴まれたまま、逆の手で掴み、離れていない方の手を見ながら、快斗にそう聞く。


『……翠に、頼めばいいんじゃないのか?』


そんな俺の腕を快斗が離しながら、翠の方を向いて言う。


快斗に腕を話された反動で倒れそうになりながらも、なんとか堪える。


『……煌』


翠が、目元を赤くして、俺を見る。


『……栞莉、よろしくね』




そう言って無理やり笑った翠に、俺も笑みを返す。

『……ああ』


『無理だけは、しないのよ⁇

……じゃあ、行くわね』


椅子から立ち上がり、そう言った翠の言葉は、俺に向けられたものなのか、それとも、栞莉に向けられたのか。




どちらとも取れる言葉を聞き、頷いてみせる。


『じゃあ、俺、翠を送ってくるよ。

明日、また来るから』



快斗も、同じく誰に向けたのか分からない言葉を最後に残し、翠の背中を押して病室を出て行く。



『……栞莉』


俺と、栞莉。



病室に2人だけ取り残された空間は、まるで、異空間のようで。



そんな事を考えている俺は、余程現実を受け止めたくないのだと知る。


『死なないでくれ、栞莉』


俺は、お前に笑っていてほしい。


お前の、笑顔が見たい。




『……そのまま死ぬなんて、俺が許さないから』