あの春、君と出逢ったこと






あれから、何時間たったのか。

ピッ…ピッ…という、病室内に響く機械音で我にかえる。


目の前には、静かに眠る栞莉。

こうして見ると、俺らと同じように、普通に起き上がって、笑いあえるように見えるのに。


そんな考えを巡らせていた俺を、栞莉の体の至る所から伸びるコードが現実に引き戻す。


緊急手術が成功して、一時的に命を取り留めた栞莉。

それでも、本当に一時的だけど。


まだ、心臓が動いている。

それだけが、唯一の頼みだった。


『……栞莉。なぁ、栞莉⁇』


いくら呼びかけても、返答はこない。


そんな事分かっている筈なのに、声をかけ続ける俺は、諦めが悪いのもしれない。


『……煌……栞莉、死なないわよね?』


疲れた声色でそう呟く翠に、俺は何も返事する事ができずに、ただただ、栞莉の手を握りしめる。


『……翠と快斗は、知ってたんだよな』



振り返らずそう言った俺に、2人が息を飲んだ事を、気配で感じる。


『……何で、俺には言ったくれなかったんだろうな。栞莉は』


俺の呟きと、機械音だけが、病室内に響く。


翠と快斗は返事をしないまま。
俺だけが、口を開く。


『……栞莉、俺、お前に伝えてない事、山ほどあるのに』


もし、死ぬ事を伝えられていたら、なんて。

どうせ、伝えられていたら。
その事を考えて、栞莉と気まずくなっていただけのくせに。


どうせ、ちゃんとした自分の気持ちなんて、伝えられなかったくせに。

栞莉は、それを知っていて、俺に伝えなかったんだと。

心の中では、そう納得している……くせに。


現実を受け止めきれずに、逃げてばかりの今の俺の状況を、栞莉は分かっていたのかもしれない。