あの春、君と出逢ったこと




思っていたよりも出ない声に、また涙が溢れそうになる。


この涙を、拭き取ってくれる人なんて、私にはいない。


『分かったわ。そこ、動かないのよ?
今行くから』



そう言って翠に切られた携帯を見つめる。

……来るなら、消さないと。



黒板消しを持ち、さっき書いた、白いチョークの文字の上にかぶせる。


スーッと下に下ろせば、何も存在しなくなる。


それが今の私にはどうしても被って見えて。
出来るだけ見ないように、黒板消しを置く。





……その時、だった。




『……っ、あっ……』

視界が歪み、足元がふらつく。
1ヶ月前よりもひどい目眩。

……駄目だ。


危険を表すサイレンが、頭の中で鳴り響く。


『……たす、け……っ』



息苦しい。

頭が、痛い。

息が、できない____



倒れないように、手当たりしだい辺りにあったものを掴もうとするも、手は、何にも触れることはなく空を切る。

息苦しくなり、痛む胸を押さえながら、膝から崩れ落ちていく。



『……こ、うく……』


床に倒れ、次第に消え行く意識を感じながら、私は、静かに瞼を下ろしていく。


くるはずもない、あの人の事が来てくれる事を、願いながら。





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