『本当⁈』



切ったフランスパンに、バターと砂糖を練り合わせたものを塗りつけて、オーブンに放り込む。


そのままオーブンを閉めて、10分セットして完了!


……適当だから、失敗しなきゃいいけど。


そう思いながら、オーブンの中に入っているものが成功する事を祈る。


『……美味かった』


キッチンで出来上がるのを待ってウロウロしていた私にかけられた声に、後ろを振り向く。


後ろを振り向くと、空になったお皿を片手に煌君が私を見て笑っているのを見て、慌てて顔を逸らす。


……笑顔であんな事を言うのは、本当に反則。

煌君、本当に私の気持ちに気づいてないんだよね?



ここまで来ると、煌君の鈍感さと無自覚さを疑ってしまう。



『ありがとう』


素直にお礼を言った私が珍しかったのか、目を見開いた煌君が、フッと口元に笑みを浮かべる。


『意外だった。お前が料理できること』



お前にも出来ることがあるんだな。と笑って行った煌君のスネをすかさず蹴る。


……いつまでも変わらないよね、煌君は。


急所だったのか、いつもより強かったのか、蹲る煌君が復活するのには結構時間がかかった。


『いってぇ……』


痛がりながらも立ち上がった煌君がそう言ったのと同時に、オーブンが10分経過のお知らせの音を鳴らす。


『何の音だ?』


『まー、煌君は気にしないで!』


いきなりなった音に首を傾げた煌君に適当に言葉を並べてあしらい、オーブンの中身を取り出す。


オーブンの中身の物は、自分が思っていたよりも美味しそうに焼きあがっていて、肩の力が抜けた。