side 綾都



会長達との初対面から約1ヶ月。


俺は相変わらず亜美の世話とボディーガードをしている。



あの日…亜美が俺の胸で初めて泣いた日以来、亜美は一度も泣いていない。



廊下ですれ違い様に足をかけられて転んでも。


夕食の時間でどんなに残酷な言葉を投げつけられても。


亜美はキュッと唇を噛み締めて、涙をこぼさないようにしていた。



きっと、泣いちゃいけないんだって、思ってるんだと思う。



祖母は亜美を庇って刺されたと聞いた。



だから、何を言われても反抗する権利も、泣いて誰かに縋る権利もないと思ってるんだ。



そんな亜美の姿を見て、俺は守ってやりたいって思った。



一見か弱そうに見えて、溢れ出しそうな気持ちをぐっと心の中に留めることができる強さを持ってる。



普通なら、誰かに助けを求める。

逃げ出してしまうことだってできる。



なのにそうしないのは、ここで逃げ出しても行くあてがないと分かっているから。


まだ16の自分1人では何も出来ないと分かっているから。