「ん。出来た」
綾都は丁寧に櫛で髪をとかしたあと、私の頭をポンッとなでた。
口パクで『ありがとう』と伝えると、
「どういたしまして」
と返ってきた。
綾都は感情をあまり表に出さない人だとは思っていたけれど、全く怖くない。
表に出ないだけで、優しい人なんだって。
会ってまだ少ししか経ってないけれど、分かったから。
「…はい。分かりました」
小型の無線マイクで誰かと話していた綾都は、無線を切ると私に問いかける。
「夕飯、出来たって。どうする?大広間で食べるか、ここで食べるか。
今日は会長も子供もいないらしいけど」
ご飯…。
あの日…おばあちゃんが亡くなった日から、食べ物があまり入らないんだ。
食べようとしても、途中で気持ち悪くなったりして…。
口パクで『部屋がいい』と伝えると、綾都は「持ってくる」といって部屋を出て行った。



