仕事だからと分かっていても、いつも私のそばにいてくれて。
こんな私を優しく包んでくれて。
そんなの、どうしたって好きになってしまう。
好き。
大好き。
「ん、ココア」
そう言ってココアを手渡してくれる綾都に、心の中で「好き」と呟いて口パクでありがとうと言った。
「誰かー!!泥棒!!泥棒よっ!!」
急にそんな叫び声が聞こえてきて振り向くと、マスクをした男の人がこっちに向かって走ってくるのが見えた。
え?え?
泥棒ってあの人だよね?
捕まえなきゃいけないんだろうけど、でもっ…。
「ちっ、めんどくせぇなぁ」
ボソっと小さく言い放った綾都は、走ってくる男の人の道を塞ぐように立った。
え、危ないよっ…!!
「っ…!!」
声が出ないから、綾都のそばに歩いて行って袖を引っ張る。
危ないよっ…。
刃物とか持ってるかもしれないんだよ?
戻ってきて、お願いっ。
綾都に何かあったら、私…。
グイグイと袖を引っ張る私の頭に、ふわっと大きくて温かいものが乗っかる。
それはいつも私を包んでくれる綾都の手で。
「亜美、大丈夫だから。向こう行っててな?」
優しく微笑まれるけれど、私はイヤイヤと首を振る。
もう嫌なの。
大切な人が、目の前でいなくなってしまうのは。
「海都、亜美を頼む」
「あぁ。一発で終わらせろよ?」
「当たり前だ」
綾都にしがみつく私を、海都くんが無理矢理引き剥がす。
いやっ!!
やだやだっ、離してっ…!!
「亜美ちゃん、あいつなら絶対大丈夫だから」
どうしてそう言い切れるの?
もしもの事があったらどうするの?
私は知ってる。
この世に絶対なんてものはないって事。
私はおばあちゃんとのあの日々がずっと続くと思ってた。
でもそれはいとも簡単に壊されたの。
小さい頃におばあちゃんと約束した。
「私の結婚式に出すウェディングケーキは、おばあちゃんのケーキがいい!」
「そうね、作ってあげるわ」
「絶対!絶対だよ!」
「えぇ、約束よ」
そんな小さな幸せの約束は、もう二度と叶わない。



