守りたいのはお前だけ




今更気づいたって、もう遅い。


本当に俺が守りたいと思った人は、もういない。



「くそっ…」



込み上がってきた悔しさとイライラを振り切るように、飲み終えた缶をゴミ箱に投げ入れた時。


「綾都」



休憩室の扉が開き、大量の資料を片手に兄貴が入ってきた。



「なんだ、兄貴か」


「なんだとはなんだ」


「別に」



ただ、そう思っただけだ。



「可愛くねぇな。昔は和にぃ、和にぃって呼んで俺の後ろくっついて来てたのにな」



「いつの話してんだよ」



「可愛いかったのに。それがいつの間にか呼び方が和都になって、今では兄貴か。あーあ、残念だなー」



「なっ…!!ガキじゃねぇんだから、当たり前だろ!」



悪い、悪いと笑って兄貴は俺の頭をガシガシと撫でる。


仕事での兄貴は厳しくて怖ぇけど、普段の兄貴はこんな風に俺をからかっては子供扱いする。



仕事では上司、普段は優しい兄貴って感じだ。



飯はもちろん、欲しいものは結構買ってくれるし、甘やかされてると俺自身が分かるほど優しい。