それからは何があるという訳もなく、私と睡魔との戦い…もとい、入学式は幕を閉じた。
…しかし。
それは入学”式”の間だけだった。
教室に足を踏み入れた瞬間ーーーー
「のんちゃん、久しぶり!」
「はい?」
笑顔で両手を広げる男子生徒がいた。
そのポーズは何を表してんのよ…
私に見覚えはなく、誰なのかすら分からない。
それなのに、あだ名で呼ばれてる?
なにそれ怖い。
この状況で、気の抜けた声を出したのは仕方ないだろう。
そうとは思ってもいないのか、その生徒は話を続ける。
「まさか同じ学校だなんて考えてもみなかったよ!
しかも、のんちゃん新入生代表やってるしさー」
いきなり話し出したその人に新しいクラスメイトはひそひそと話しているみたいだ。
「なに?感動の再会みたいなやつ?」
「ねぇあの男子さー、よく見たら結構イケメンじゃない?」
「うんうん。あーあ、入学式の時から目、つけてたのになぁー」
私、こういうの苦手なのに…
うぅ、みんなの視線が突き刺さるよ〜…
私はこらえきれず、口を挟んだ。
「その…どちら様、ですか?」
すると目の前の人は驚きを隠せないみたいな感じで、まばたきを2、3回繰りかえした。
「えっと…のんちゃん、覚えてないの?」
「ごめんなさい、全く分かりません」
そう言うとその人はピシッと石みたいに固まってしまった。
……本当、ごめんね?