ガチャ。
「ただいまー」
あれから先生は、小太りじいさんに呼ばれて行っちゃったから
1人で電車に乗って帰ってきた。あたりはすっかり暗くなってもう7時を過ぎていた。
「おかえり。今日は遅かったのね」
自分の部屋に戻る前に、1度リビングに寄った。
「学校で課題やってたら遅くなっちゃって。ご飯はこれから?」
「うん。あと10分くらいでご飯の用意終わるからその間に着替えちゃいなさい」
「はーい」
またリビングを出て、次は2階にある自分の部屋に入った。
制服をかけて、部屋着に着替える。黒のサルエルパンツに白いワンポイントのあるトレーナー。
家の中だし、楽な格好。前髪も上げて、ベッドに寝転がってスマホをいじる。
あたしの部屋は、白とパステルブルーで揃えてある。
机があって、本棚があって、ベッドがあって、クローゼットがあって。
そんなシンプルな部屋。
スマホを置いて仰向けになって、手を上に上げる。
「男の人の手…触っちゃった…」
流れでさり気なくだったけど、確かに男の人の手だった。
初めて触った手だった。
あの時は、ドキドキと心臓がうるさかった。
この日からきっとあたしは先生が好きだった。
でもこの時のあたしは、この不思議な気持ちをまだ理解していなかった。

