小太りじいさんは、きっとあたしがこんなに早く終わると思っていないはず。
だから、今あたしが行ったら焦ると思う。その顔を目に焼き付けておかなければ。
「ははっ、面白いなお前。
一緒に降りるか1階まで」
「はい!」
先生は、よく笑う人だな。
先生の横顔を見ながらそんなことを思った。
喋りながら、並んで階段を降りる。
意外と気さくで、話しやすい。そして、数学ができて教えるのが上手。
今日知ったこと。ほんの数時間一緒にいただけで先生の良いところがいっぱい見えた。
コンコン。
「失礼します。1年の工藤です、松岡先生いらっしゃいますか?」
「あぁ、いますよ。入ってどうぞ」
名前のわからないおばさんの先生が答えてくれて、頭を下げてから中に入った。
「今日出された課題持ってきました」
…ビンゴ。あたしの予想的中!
小太りじいさんは、あたしが渡したプリントを見て確認してる。しかめっ面で。
「よ、よく頑張ったな。もう帰っていいぞ」
あからさまに悔しそうな顔をしてた。あたしの顔を見ずに
早く帰れ、みたいな言葉を投げかけてきた。
だから、あたしはそのまま職員室を出た。

